生物多様性


 2010年は多様性の年です.正確には国連が制定した「国際生物多様性年」です.2002年に決めた2010年目標というのがあり,それが達成されるように,ダメでもなるべく達成に近づくように,みたいなコトです.わりと具体的な[〆切]みたいな年なんですよ,本来は.
 しかもその目標が[多様性の喪失速度をコレコレの程度緩める]という複雑な内容です.多様性の定義さえ覚束ない人類には[現存量]が測れません.[喪失量]も出せません.喪失速度は算出できません.なのにその[加速度]なのです.無理ですよねぇ.その達成の可否をチェックするのがこの年.本来はそれを見直す年なんです.[目標達成のチェックをする能力さえ我々は持ち得なかった]というのが正解ではないでしょうか(さまざまな試みが成されてはいるようですが).

 しかしもちろん目標が達成されるアテはなくとも,そもそも達成の可否を判断するすべさえもたなくとも,国連としては「各締結国政府は何らかのアピール活動くらいはしてくださいね,せめて」というスタンスをとるしかありません.各国政府としてもは「ほな,一応,意思表示くらいはしときまひょ」てな態度ではないでしょうか?
 そういう事情なので,実質的には[多様性]をネタにさまざまな活動がおこなわれる年であり,予算がつく年であり,立場によっては金のなる木なのです.愚かな人類.

 私たち愚かな人類は,たぶん[多様性とは何か]さえ共有の認識を持っていません.そこからはじめるべきですが,なかなか難しいのです.多様性を理解していな我々に,その重要性は認識しようがありません,その保持のために努力が必要だとは判断できないはずです.しかし,実際に行われているキャンペーンは安易な絶滅危惧種の羅列,象徴種の礼賛にすぎません.
 むしろ,やり方が逆なのです.
 抽象的な言い方しかできませんが,こういうことです.人類にはまだ多様性を観る目がありません.しかし早急にそういった観方ができるようにならなければなりません(さまざまな試みが成されてはいるようです,お金がつきますので).この時点で言えることは,絶滅危惧種や象徴種に注目するのは,多様性を観る際の目の使い方ではない,と言うことです.いつまでもそんな事をしていてはいけないのです.無視も特別視もしない見方をしなければならない,それらを含めて広く観る見方をしなければなりません.人類にとってはそれがなかなか難しいけれども,獲得しなければならない能力なのです.ですから,むしろ逆なのです.遠望視ができない,そのやり方を習得すべきなのに,目の前のペン先を凝視しているようなものです,抽象的ですが.

 まぁ,それはそれとして,ここでは多様性関係の事をまとめておきます.

多様性と天気

  1. 多様性の多面性と多元性
  2. 人類の未解決課題:天気の概念
  3. 天気の分別

ツノヤハズでの種多様性

  1. 種の多様性

ツノヤハズでの変異性

  1. 種内,種間の変異
  2. 偏差平方和
  3. 「変動」とよばれる概念
  4. 種多様性と種内変異の間にある多様性

なんでも多様性

  1. 多様性の上位構造

【多様性の多面性と多元性】

 一言に多様性といっても色んな側面,観点があるわけで,コレさえチェックすればいいというものでありません.
 多様性の多面性と多元性,筆者はこれがふだんの生活で漠然と言う[天気]の多面性に似ているのではないかと思っています.

【人類の未解決課題:天気の概念】

 どういう事かと,いわゆる[天気]の中で,たとえば[気温]は重要な項目ですが,それがすべてではありません.晴れか雨か曇りか…,は非常に重要ですが,それが全てでもない.気温は低いけど弱い風と穏やかな日差しがむしろ気持ち良い,とかが全て[天気]に絡んでいます.多元的(いろんな要素からなる)であり,多面的(いろんな捉え方ができる)なのです.
 多元的,けっこうでござんせんか?{晴れ時々曇り,気温10度,湿度70%,気圧1000hPa(昔のmb),風速…}全てを含んだものが天気.多元的でけっこうざんすよ.ただ,困るのは比較の際です.[昨日に比べて気圧と気温が高く,B地点より湿度が低く風速が強い]と,それぞれのパラメーターの比較になってしまい,天気全体としの比較ができないのです.ベクトルの演算ですね.[きのうより天気が悪い]とか[Bよりはマシだ,辛抱しろ!]とかの一言で済ませたいのです.ベクトルの[内積]みたいな,比較のためには全てをまとめた単一の指標が欲しいのです.多元的であっても一面的にしたい,多元的であって多面的であっても多面のうちの第一面を決めたいわけです.情報の損失は覚悟の上で集約しなければなりません.
 [体感気温]とか[不快指数]だとか,[お洗濯指数]だの[おでかけポイント]だのと色んな値が定義できます.究極は[傘を持っていくべきか]です.YesかNoかのブール代数,たった1bit,今は1Shaと云うそうですが,です,まとめすぎっ!
 これは決して[天気]の概念がいい加減だというのではありません.[天気]は多面的な概念なのです.我々人類は,たぶん何万年も,[天気]という言葉で何か重要なことを言ってきたわけですが,それを単一の指標,数値なり何なりに集約して表すことが,いまだに,できていないのです.人類文明の大きな課題なのです(大げさ).で,これと似たことが[多様性]についても言えるのではないかと思うんですわ.

 多面的な概念を単一の指標に集約することの困難さ.その点では[天気]より[多様性]は楽かもしれません.求められる指標の完成度のハードルが低いですから.[買いたての傘を持って出たのに降らんから忘れて帰ったぞ][大量に仕入れたのに雨で客足がとまって売れ残ったぞ][なるほど日は照ってたけど寒くて風邪引いたぞ]と,シビアなクレーム,理不尽なイチャモン,いわれない脅迫に慄く心配はありません.
 あと,多元性に関していうなら,[天気]より[多様性]はずっと単純です,思いつく要素は種数などの構成項目数と,それぞれの種の個体数や出現比率などの頻度分布,あとはそれぞれの種の質的な違い,くらいです.  単一ではなくても少数の性質の異なる指標にまとめることが正解かもしれませんし.とりあえず強引に決めてしまって,それで拾えない部分は別の指標で見るとか,が実際的かもしれません.というわけで,21世紀中には人類共通の共通の尺度を作れるかも.[サクマ式ドロップはキャラメルコーンより○○やな.]の○○に当てはまる単語が出現するのかも.

【天気の分別】

 ところで,気象庁のサイトを見ると天気は[気温、湿度、風、雲量、視程、雨、雪、雷などの気象に関係する要素を総合した大気の状態]となっています.また[気象庁では国内用として、次の15種類に分けているが、国際的には96種類が決められている。 快晴、晴れ、薄曇り、曇り、煙霧、砂じんあらし、地ふぶき、霧、霧雨、雨、みぞれ、雪、あられ、ひょう、雷。]となっています.
 後のほうの説明だと時間ごとの分別変数っぽいですね.どれかだったら他ではない,という,[分別]です(本当はプラスチック製品で,化学的にはたぶん燃えるけど分別順位で[食品容器]とする,みたいな).あくまでも或る時間断面での状態のようです.雲量50でもある瞬間は晴れで別の瞬間は曇り,みたいな.だとすると実際によく聞く[晴れ時々曇り]や[曇りのち晴れ]はどう解釈すべきなのでしょうか? 時間に幅をもたせてその時間内に(15種類の)天気がどのように出現するかを表現したものであるはずです.これも[天気]だとすると,時間断面だけの[天気]と,時間軸方向の厚みをもった[天気]とがあることになってしまう.これて,なんか[種]の定義と似たジレンマです.話が逸れますのでこれまで.


【種の多様性】

 さて,やっと多様性の話です.
 考慮の対象となる個体群全体をいくつかの種に区別できたとき,種の多様度が定義できます.具体的な例で考えてみましょう.それぞれの種がそれぞれの個体数を擁して全体の個体数を構成しているという状況(下表のような)です.もちろん,このときそれぞれの種の中での多様性はとりあえず無視した上で,です.

 風の森星の森空の森花の森全体
Kブト
Kクワ1424
Sクワ
Oクワ
Hクワ
Nクワ
Mクワ
Kナブン10
合計151213★1757
種数★8

 ん〜と,表の例に入る前に,単純なことを考えてみましょう[それも多様性の尺度?]みたいな事を.たとえば個体数そのものや種数そのものは多様性の尺度か?といった問題です.
 これらについてはちょっと悩みますね.[0種0個体]と[1種1個体]を比較すると後者が多様性は高いような気がするし,[何種かわからないけど3個体]と[何種かわからないけど5個体]でもそうです.[3種しか居ない]と[5種はいる]とかでも後者だと思う.このようなことから,全個体数や全種数もいちおう,多様度の指標で有り得る気がします.1週間で目撃2種計2匹と1月で2種各4匹,半径10メートル内で1種1匹と20メートルで2種計4匹,といった場合も困ります.甲乙はつけにくいけれども何らかの形で多様性は感じ取れます.
 …というふうに[〇〇は多様性の尺度たりえるか?]という問いは,否定するのが困難なのです.役に立つとは思えないが,ある場面では多様性を表現しているかもしれません.従って,多様性の尺度としては多様な定義が可能なのです.で,表に戻って…

 上表のような各種の個体数(または構成比)に対して多様性の指数をさまざまに定義することが可能です.ふつう,種数の豊富さと均等さを含む,代表的なものとしてシンプソンの多様度指数Dとシャノン・ウィーナーの多様度指数H’があります.基本的には一匹採って,次のやつが同じかどうか?みたい予測不可能性を数値化したものです.

 風の森星の森空の森花の森全体
Kブト
Kクワ1424
Sクワ
Oクワ
Hクワ
Nクワ
Mクワ
Kナブン10
0.7560.792★0.8520.3050.750
H’1.4901.589★1.9920.5781.649
(抽出した標本ではなく)生息全個体を検している前提で算出

 もともとのDは,多様性が低いばあに1に近く,多様性が低いほど0に近づく,多様度の指数というよりは[多様でない度の指数],[決まりきり指数]みたいな感じだったので,のちに1からそれを引いた値を使うようになったようです.
 H’の方は昔はマッカーサーの多様度指数とも呼ばれていました.マルガレフのHというのがあって,有限個体数の全数(自然数)用に定義されていたのですが,これを,出現確率(有理数)用に定義しなおしたのでダッシュが付いたようです.式に対数の部分があって底がeだったり10だったり2だったりできる(上表ではe)ので,数値だけを見るときは注意が必要です.まぁメートルとフィートは違うという程度のことですが.また,最近はH’は良くないとされるようです.筆者はその理由を理解していませんが,標本抽出による誤差の出方が不公平だということだと思います.H’の方が珍種の影響が強く出て,個人的には好きなのですが(そういう問題ではない).

 論理的な正当性はともかく(オイオイ),実用上,単純な比較に使うのならDでもH’でも(他の指標でもたぶん)構いません.順番が変わらないからです.しかし比較の比較となると,そうはいきません.
 ある指標によればA地域とB地域の差が0.2,BとCの差は0.3だったとすると,BとCの差のほうが大きいように思えます.でも別の指標では逆転するかもしれないのです.つまり,こういった指標には引き算は成り立ちません.もちろん足し算も成り立たないでしょう.上の例でも風の森と星の森のDは全体でのDを上回っています.いっぽうH’は下回っています.テストの点が平均点の上か下かは重要ですが,この場合の全体のDやH’との比較には意味はないのです.
 [B公園は0.4でC公園は0.3で合計0.7,いっぽうA公園は0.8なので,こっちを残してB公園とC公園を撤廃して開発]などという計算は,当然,ありえません.しかし,そういう誤用,乱用,悪用の危険性を孕んだ数値でもある事は心得ておくべきでしょう.


【種内,種間の変異】

 上の[種多様性]は種内の多様性を,とりあえずコッチに置いといて,の多様性でした.しかし,同種内の個体のいろんな形質の変異も多様性の重要な要素です.[このへんの◎◎種は全部○○型だ]と[○○型に混じって△△型もいる]と[○○,△△,◇◇の型が確認されている]は多様性に差があるように思えます.離散的な型ではなく連続的な形質で…[ここのはサイズが揃ってる]と[小さいのも多いけどたまにバケモノが採れる]の違いもそうです.平均まわりのばらつきの程度が激しいと多様だといえるでしょう.偏差の大小は多様性の重要な構成要素です.また,種内に限らず,近似種を含めた種内と種間の変異から多様性を見ることができます.
 ツノヤハズ・マメヤハズは,ごく近似種のみを扱ったものですから,こういった多様性を考えるには好適な材料といえます.

 たいていの量的形質の散り具合は,平均値(全数の場合,エクセルで:AVERAGE())と,平均周りの標準偏差(全数の場合,エクセルで:STADEP())などに集約できます.標準偏差が大きいデータはよく散っていて多様だどいえるでしょう.ただし,これには個体数も関与します.
 下表に2種7個体だけの計算しやすい例を示しました.これに沿って,標準偏差の算出方法を定義に基づいて見ていきましょう.
 まず,各データについて平均との差(偏差)を算出し,これを二乗して合計(偏差平方和)し,それを個体数で割って(偏差平方の平均=分散),そのルートが標準偏差です.

個体番形質状態
測定値
全体平均
との偏差
A種平均
との偏差
B種平均
との偏差
全体偏差
の平方
A種内偏差
の平方
B種内偏差
の平方
−13−31699
−7499
12−4−81664
16−4016
20160
246416
281214464
個体数平均全体平均
との差
全体A種内B種内
全体16偏差平方和45818160
A種−10分散458/718/2160/5
B種20標準偏差8.08935.657

 散り具合を比較するだけなら[分散(全数の場合,エクセルで:VARP())]でも[標準偏差]でも同じですが,わざわざ(正の)平方根をとるのは,単位は測定値と同じ次元,mmならmmにもどってイメージしやすいからでしょう.最大何ミリ,最小何ミリ,平均何ミリで,標準偏差も何ミリだと言えます.標準偏差はちゃんと長さのミリメートルですが[分散]は平方ミリメートル,面積で出ます.イメージしにくいです,平均の両側に色んな面積の正方形を想像してその面積の平均…イメージできないことはないケド… で,普通は標準偏差を使うわけです.

【偏差平方和】

 ここで注目したいのは,途中に出てくる,個体数で割る前の[偏差平方和](全数の場合,エクセルで:DEVSQ())です.これが(標本からの推定値ではなく全数の場合),意味のある扱いやすい値です.積み上げたり,寄与分を分けたりできるからです.結論から言うと;

全体の偏差平方和 = 種間の偏差平方和 + 第一種内の偏差平方和 + 第二種内の… + …第z種内の偏差平方和
種間の偏差平方和 = 第一種分の種間偏差平方和 + 第二種分の… + …第z種分の種間偏差平方和
第n種分の種間偏差平方和 = 全体平均と第n種平均の差の平方 × 個体数

に分解できるのです.

 表で確認しておくと,まず上の表の右下の偏差平方和について,全体が458でA種内が18,B種内160ですので,残りは280になります(下表).

全体A種内B種内残り
偏差平方和45818160280

 一方,(実際には二種とも種平均の周りに散ってるわけですが)それぞれの種は種の平均値を持っているかのように取り扱ってうと;

個体数平均種平均と
全体平均
との差
偏差平方
(個体あたり)
偏差平方
(種個体数分)
全体16
A種−10100200
B種201680
二種計280

 A種各個体が(A種平均値にあるとして)全体からの偏差平方はそれぞれ100で2個体計で200,B種も同様に各個体16で5個体計80となり,〆て280です.ぴったり一致(当然ですが).

 分散分析と同じ考え方です.ひらたく言えば[散り具合]の(大小が比較できるだけではなく)足し算や引き算ができるわけです.全体の散り具合は,種の散り具合と種内の個体の散り具合に分けられ,
種単位で見た散り具合は,それぞれの種の寄与分に分けられ,種の寄与分は,一個体あたりの寄与分に細分できる,という感じです.

【「変動」と呼ばれる概念】

 なお[偏差平方和](SS:Sum of Squares)は別名[変動]とも言うようです.…[変動]ねぇ.統計用語っぽくないのであまり使われてないようですが…

 考えてみると[偏差平方和]は算出方法による命名,[変動]は表現したい概念による命名ですね.その分け方でいくと[平均]も[分散]も後者です.だとすると[変動]と呼ぶ気持ちが分からないでもありません.たとえば[速度の変化率]というよりは[加速度]のほうがしっくり来るのとおなじです.
 ただ[分散]があるのに[変動]もあるのかぁ,別の概念なのかぁ…という気もするわけです.難しい.[天気]や[多様性]に続いてまたまたこんなのが.

 ただ,これを使って,全変動(SSY)=群間変動(SSG)+群内変動(SSE)という言い方をすると,ナルホドと思うわけです.変動は要因ごとの寄与分に分解できる(分散ではできない)のです.そういう性質のある量というかパラメータがあると思い,それを[変動]と呼ぶことにしましょう.

【種多様性と種内変異の間にある多様性】

 上記の[変動]を分解することで,それぞれの種の中での多様性が評価でき,それらは種ごとに比較できます.
 また,[種多様性]の発想からは,A,B,Cの三種がいる場合,その3種はあくまで離散的な3種です.3種拮抗か,どれが優占しているかは評価しますが,A,B,Cそのものの違いは評価しません.しかし,実際にはBとCは似ていてAだけかけ離れた種類であったり,あるいは系統的に(A(B,C))であったり,非対称なのです.これを種多様性の視点からは無視される[異種間の類似性]という多様性が潜んでいます.この部分が種間の変異の延長として計ることができるでしょう.

 [種]を時間的な奥行きをもつものと(世代を超えて継続しているものと)考えた場合,単一の種が二種に分かれたとき(母種が2娘種に分かれたとき),リクツの上では母種の平均値は消滅し,それぞれ娘種の平均値が出現するわけですが,各娘種で平均値をめぐって算出される種内の偏差平方和は合計しても母種よう小さくなり,その差額は種間の偏差平方和の増分となります.
 これを必然的な種分化の過程としてみると,個体数やその形質の性質によりますが,種内で保有できる変異には上限があり,超えると種分化に至り,結果的に種内の変異は減少する,と見なすことがでるでしょう.

 ツノヤハズ・シリーズでは,マメヤハズのDemeJのBDエディション(2010年リリース)から飼育の途中経過として,指定した一定世代ごとに多様性のパラメータ(個体数,種数,D,H’,全体や種ごとの各形質の平均,分散など)を書き出す機能を追加しました.
 これを利用すると,世代全個体および各種種内の変動は分散×個体数で算出できます.種間変動は全変動から種内変動を引くことで算出できます.


【多様性の上位構造】

 多様性を考える際の,主に空間的な広がりをα〜γの多様性と区別することがあります.これは面積の大小ではなく,要素間の構造の違いと理解すべきでしょう.

 多様性を持っている対象じたいを,あくまでも単位とみなして内部構造を無視する,あるいは均一なものと見なして,先を考える.多くの人において発想の出発点だと思われます.これがα多様性の世界です.
 もちろん,対象とする土地の広がりを少し厳密に思い浮かべるだけでも[均一な内部]というモデルはたちまち破綻します.普段は何気なく一つの場所だと思っている土地が,じつは少なくとも草原と林縁と森内に区別できたりします.均一っぽい小さな面積をとっても内部には必ず不均一性があります.一枚の畑であっても畦沿いと中央部は違うでしょう.畝の両側で違います.面積をもんのすごく小さく採ったら,今度は粒子性が顕著になってしまいます.1平方センチメートルの地面を扱ったとしも,そこには,小さな石があって,その下と横では多少は違った営みが繰り広げられている,そんな無視できない違いが現れてきます.
 意地悪な屁理屈をこねればα多様性を云々できるフィールドはどこにもありません.結局,α多様性は一種の理想化であるのです.しかし,物理の思考実験で空気抵抗を無視するの事が有効であるのと同様に,その重要性はまったく否定されるものではありません.不均一性を認識した上で適切に無視することが必要なのです.

 次に,それ自体が多様性を持つ単位が複数集まって上位の単位を構成している,そういう発想も当然あり得ます.畑と水田と果樹園と二次林と杉植林と渓流と道路がある比率で,ある分布様式で混在している,というようなモデルです.あるいは◎◎群落と△△群落がある比率で混在している,とか.こういった基盤の上に考えられるのがβ多様性です.二段階でなくても三段階の階層で構成されているかも,もっと多段階かもしれません.ともかく多様性を持つ単体が上位の構造を形成している,各段階では均一,というモデルの上で発想される多様性をβと呼ぶのでしょう.
 ここまでは,まぁ,納得できます.

 さらに,たとえば山塊や島嶼など,広域にわたる地域全体の多様性を考えるときには,構成生物を強く規定するはずの地形の多様性,傾斜や標高の多様性が重要になるでしょう.基盤自体が世界にそこだけ,ほかにない.これがγ多様性のフィールドに該当します.場合によってはほぼ地球全体が対象です.
 こうなるとそれぞれユニークなものであり,内部にしかもはや多様性がなく,その構造自体も構成要素もユニークなものにならざるを得ません.それらは個々に対象とすべきではないかと思います.こういった対象を敢えてわざわざγ多様性と位置づけるのは,大人の事情なのかもしれません.